身支度・ラバーダック

わたしがまだパジャマで、顔も洗わずトカゲを部屋で散歩させながら無のゲーム(同じ絵のタイルをみっつ選び集めるスマホのパズルゲーム)をしていた13時、夫はひと山を登りきり、下山報告とともに気持ちのよい風景写真をわたしに送っていた。

夫婦でこの落差!

今日はわたしも図書館に本を返しに行かなくてはならない。身支度をするのにまずはシャワーからなので、三時間はかかる。なにもせずとも腹は減っているのでご飯も食べプラス一時間、図書館行きのバスに乗れたのは17時だった。もう暗い。

ひさしぶりに、着る服がなにもない……と服の並ぶクローゼット前で嘆いていた。数ヶ月ぶりに履いた白いジーンズが、恐ろしく脚が短く見えると気づいて脱ぎ、黒のストレートパンツに変えたら今度は驚くほど地味で、べつに図書館に行くのにめかす必要などこれっぽっちもないが、外出着を身につけるのが一週間ぶりであるためそれなりに気に入った格好をしたいと思ってしまう。スリッパだけ、ビビットな紫に赤のさくらんぼがドーンと刺繍してあるという派手さだ。スリッパで外を歩くわけにもいかないので赤のコンバースでカラー一点主義みたいにし、マルジェラのバイ ザ ファイヤープレイスをつけて家を出る。冬の香り。最後に香水の名前出すとめかし感出ますね。

 

図書館は駅前にあり、ついでに買い物もして帰りたい。いちばん欲しいものはラバーダック、お風呂に浮かべる黄色いアヒルである。

わたしはお風呂に浸かるのがあまり好きでなく、シャワーで済ませてしまうことのほうが多い。浸かれば気持ちいいが、のぼせるのが早く、すると顔面は白いのに頭皮が赤くなってなんか気持ち悪い。でもお湯がもったいなくて長々と入ってしまう。結果として体力が奪われるので、なけなしの体力を使いたくない!という気持ちで浴槽を忌避することになる。

しかしこの家に越してきて、浴槽が広くなり、脚も伸ばせるようになったのでぜひお風呂を堪能したいものだと常々思ってきた。お風呂を楽しむために、今まではスマホを防水ポーチに入れて持ち込めるようにする、入浴剤など香りを楽しめるものを買う、本を持ち込むなどしてきたが、スマホはできればやめてリラックスしたいし、香りものは猫の体にはあまりよくないものもあるのでできるだけ少なくしていて、本は水没させたことがあるので中止と、思いつくものはだいたい手詰まりである。

黄色いアヒルは最後の手段だ。

欲しいものが初めて買うものであったら、現代人はだいたいネットで検索をかけ、そのままポチったり、出かけて買うなら売っていそうな場所の目処をつけたりするだろう。わたしもグーグルの検索欄に「風呂 アヒル」「黄色 アヒル おもちゃ」「ラバーダック」などと入れてみた。

なるほど、通販では一匹で売ってくれるところより、数匹のセット、あるいは数百匹の大所帯が多いということがまずわかった。一匹で売ろうとすると、送料のほうが高くつく。

いつも使っているヨドバシドットコムにユニコーンとの交雑風ラバーダックがあるようだ。みてみると、類似商品としてワニ、虎、蜂、タコ、ゾンビといった遺伝子改変バージョンのラバーダックがずらりと出てきた。むしろ黄色いシンプルなのがいない。そんなわけあるかとAmazonでも検索する。いやあのたくさんはいらないんですよ、一匹で……なんか顔が思ってたのと違うな、水鉄砲とか色違いとかもいりません、またゾンビか! と見ていくうちに、Amazonには「Duckshop」なるブランド(店名?)があることに気づいた。すごい、ラバーダックのコスプレバージョンばかり取り扱っている。ヨドバシにあった遺伝子改変バージョン(ワイルドパブリックというメーカーのもの)ではなく、ラバーダックにさまざまな服を着せた感じで、アレンジとしてはわたしはこっちのほうが好きだ。顔つきも理想的。えっでも2000円とかする。そんな……。とりあえずこいつの素っ裸なのを出してくれ!

しかしいくらページを繰ってもコスプレラバーダックしか出てこない。ようやくあった! と思ったら2157円であった。いくらなんでも。しかもこれ顔が他のコスプレラバーダックたちと違うな。おちょくってんのかみたいな目つきだし、すこし作りも荒い。潰れている、尻のみである(潜っているところ)という明後日方向の変化球なやつもいる。ちょっとこれも欲しくなってきた。かわいくない顔の動物ものが好きだからなわたしは……。

高くても300円くらいで売っているのではと安易に検索したが、すっかりラバーダックの世界で迷子になっていた。ツイッターでラバーダックが見つからないと泣き言を漏らすと、百均で買ったことがあると教えてもらえた。

それでは、図書館に本を返すついでに、ラバーダックを手に入れましょう。

一軒め、駅前でときどき行く百均で、お風呂で遊べる子ども向けおもちゃの棚を見たが、金魚すくいや水でふくらむ怪しいスポンジしか見あたらない。

二軒め、スリーコインズがあったなとおもむいてみると、百均以上にシンプル&ナチュラルおしゃれな日用雑貨とファッション小物で占められていて、子供用おもちゃや俗っぽい色合いのものがほとんどなかった。唯一、左右で蛍光パープルと蛍光イエローと色が違うエキセントリックなふかふかルームソックスが目に入り、上のほうで書いた愛用のスリッパと合わせたら目がチカチカしていいのではないかと魔がさしたが、ぐっと堪えた。ルームソックスは足りている。

三軒め、一階が食料品で二階三階に衣類や日用品もある大きめのスーパーへ足を伸ばした。駅の反対側でちょっと歩くので滅多に行かないが、日用品コーナーに子ども向けお風呂おもちゃはあるのではないかと踏んだのだ。だが、名探偵コナンのバスボムしか見つけられなかった。

あきらめかけたところで四軒め、なんと日用品売り場の奥のほうに、入ったことのない百均があるではないか。しかも一軒めとは違う店である。わたしはそこでまず、バス用品のところを探した。子ども向けのお風呂用おもちゃと思っていたが、大人(わたし)だって風呂にアヒルちゃんを浮かべたくなるのだから、ふつうのバス用品として売られていてもおかしくない。

あったあった、ありました。お母さんアヒルとして大きいのと、仔アヒルとして小さいのがプラスチック桶の横にたくさんいる。目にまつ毛があり体の形もちょっと理想と違うが、100円で買えるのだしとりあえず浮かべたいと迷わず母アヒルだけ一羽購めた。

バーダックはこのようにしてわたしの元にやってきましたが、Amazonで検索したラバーダックのいくつかをほしい物リストとして公開しておきます。わたしの誕生日は八月四日ですし、クリスマスは十二月二十五日です。

一番下にビッグベンをかぶせられ頭蓋骨の変形したラバーダックがいるが、ラバーダックってもしかしてイギリスが原産なんだろうか。ハリー・ポッター(舞台がイギリス)でもハリーの親友ロンの父親が、マグル(魔法が使えない人々)の世界で生活していたハリーにラバーダックってなにに使うの? と質問している場面がある。

www.amazon.jp

帰ってきてからEbayでも検索してみたら、おちょくった目つきのラバーダックには中指立ててるやつもあるようです。しかし送料が高いので4750円。

directshop.qoo10.jp

 

せっかくラバーダックを買いましたが、今日は風呂に浸かりません。