金継ぎ、乾かない漆

金継ぎを始めた。割れた陶磁器を漆でくっつけ、金で化粧して、割れたところをわざと目立たせるようにつくろう、趣ある修繕方法だ。

したいと思ったのは五年以上前、麺用のどんぶりの縁を小さく削ぐように欠けさせてしまったとき。夫と暮らし始めた当初はお互いの家から持ち寄った、いわば貰いものの食器がほとんどを占めていて、そんななか麺用のどんぶりは初めて、この食器欲しいと思って自分で買ったものだったので、縁が欠けたくらいで捨てる気にはなれなかった。それからさまざまな食器が割れた。豆皿、レンゲ、木のおわん、コーヒーのドリップ。それらを買い替えずとっておいて、いつか金継ぎをするんだ……と思いながらはや五年が経ってしまった。ようやく重い腰をあげられたのである。

 

レンゲやコーヒーのドリップ(の取っ手)は難易度が高いようなので、まずは比較的きれいに割れている豆皿とおわん、縁が欠けただけの麺用どんぶりをやってみることにした。テキストは堀道広 著「おうちでできる おおらか金継ぎ」。

道具は去年末からちまちま買って揃えた。初心者向け金継ぎセットというコンパクトにまとまったものがよく売っているのだが、それはよした。「おおらか金継ぎ」を読んで必要な道具をリストアップし、ホームセンターにもあるというので探したところ、わたしがよく行くホームセンターにはなくって、しょうがないのでアームカバー、デザインナイフ、プラスチックヘラ、筆といった、金継ぎで使うけれど金継ぎ特有の材料・道具というわけではないものだけそこで調達し、その後セットというものがあるんだなあと気づいたのだが、かぶる道具が出てくることが予想され、それもなんだか鬱陶しいから、もうひとつずつ買ってっちゃお!と思ったのだった。

 

では始めましょう。

1)割れた面の角をやすり、漆を薄く塗る。ここで一日乾かす。

2)欠片同士を、強力粉と漆を混ぜたもの(麦漆という)でくっつけ、また一週間から十日かけて乾かす。縁のかけているものは、麦漆にさらに木の粉を混ぜてパテ状にしたもの(刻そ漆という。「そ」の漢字が出ない)を押し込み、それも同じくらいかけて乾かす。

 

とにかく乾かす時間が長い。

漆を乾かす箱を「漆風呂」といい、段ボール箱で代用できるが、湿度は高くしておかなくてはならない。70〜80%くらいがよいそう。温度は20度くらい。我が家には室温22度の部屋があり、そこはずっとエアコンがつけっぱなしになっていて、同時にかなり乾燥もしている。熱帯に生息するトカゲを飼っている部屋なので、その気温・湿度がちょうどいいのである。温度としてはその部屋に置くのが望ましいが、湿度のほうは保つのが大変だ。中を濡らしまくって濡れ布巾も入れているものの、寝ている間にそれらはカッサカサに乾いてしまう。そのせいで漆はなかなか乾かない。もしかして金継ぎというのは梅雨の時期にやるのが労なしなのだろうか。あるいは夜のあいだはお湯を張った浴槽の上に乗せておくとか。でもわたしは毎日は浴槽に浸からないんだよ。乾かしのところですでにつまづいているが、ちゃんとできあがりますように……。

おうちでできるとうたっているだけあり、本はとてもわかりやすいし代用品や細かなコツも書いてくれていてありがたい。伝統工芸だけあって、ネットでちょっと調べただけでもやり方や材料の名称の細かな違いがいろいろあり、奥が深いのだろう。

そういえば「おおらか金継ぎ」の著者の堀道広さんは、割れた鳩サブレーを金継ぎしていなかったか。そういうアイディア金継ぎ、あそび金継ぎみたいなのもできるようになったら楽しそうと思う。

 

ひさしぶりの制作日誌がとつぜんの金継ぎで、自分でもとっ散らかっているなと思っているが、そのうち製本の制作日誌も再開したい。去年の11月に四日間しか書いていないのだから、再開したいっていうほど長く続けたわけじゃないが。

専門性のある制作を続けたいと思いながらまた気が散ってしまった、というひっかかりがある。こういう遊民的制作をわたしはずっとやっていくのだろうか。なにかまとまった成果を作りたいものだ。