ドラム式・猫ドア・難解な操作

家に新しい洗濯機の来る日だ。

わたしはなにしろ無職なので洗濯物を干す時間はいくらでもあり、洗浄力が高いと聞いたので洗濯機は縦型派だったのだが、ここへ来てあえなく乾燥機つきのドラム式に変えた。隣人がベランダでタバコを吸い、干した洗濯物に臭いがついてしまうのが、もう耐えられなくなったからだ。タバコを吸わないでくれとは言い出せなかった。

ライターの火をつける音に敏感になって、なにをしててもベランダに飛び出るのは苦行だった。濡れた洗濯物を仙台の七夕まつりの飾り付けのごとく洗面脱衣所一面にぶら下げ、合間を縫いながら風呂へたどり着くのもなかなか鬱陶しかった。

それにしてもドラム式のお値段よ。

ほんとうはこの洗濯機を買うお金で、ライブラリーに置くいい椅子を買いたかった。まだしばらくは床に直座りだな。

 

洗濯機を搬入してくれた二人組の作業員が、トイレの脇の壁についている猫用ドアを発見し、

「あっこれもしかして……」

「にゃんにゃんの出入り口じゃないっすか?」

「こんなとこから出てきたらかわいすぎる!」

と話していた。わたしは彼らの視界にはいなかったのだけどバッチリ聞こえていて、ついニヤニヤしてしまった。

そうでしょうそうでしょう、かわいいんですよ。猫用トイレが人間用トイレの個室中にありますからね。用を足しているときに連れションにきてくれることもあるんですよ。と説明したかったが、わたしの前では二人は洗濯機のことしか話さなかったので、黙っておいた。

 

洗濯機は無事に搬入され、電源を入れてみたものの、操作パネルがよくわからない。乾燥機でなんでもかんでも乾燥させるわけにもいかないだろうし、ドラム式を使いこなすのには時間がかかりそうだなと思う。縦型のときは粉末洗剤を服の上から乱暴にドバーと撒いていたが、ドラム式は自動投入口を使ったほうがよさそうだ。

説明書を眺めてみたが、説明書すらちょっと難しい。いよいよ世の電化製品の進歩についていけなくなってきたか。説明書には「この洗濯洗剤ならこれくらいの量」と洗剤の商品名を挙げて細かく書いてある。わたしが使っているのはスーパーのプライベートブランドの最安粉末洗剤(900g 160円くらい)なので、当然載っていない。

今日は洗濯しないからまあいいかと説明書は閉じた。

リサイクルで回収された12年ものの縦型洗濯機の説明書を取り出す。これほどの大きな家電の説明書となると、テクニカルイラストレーション目白押しである。ここのところやっていないし、明日はこのテクイラ鑑賞をしよう。