虎が夢を見る・撮り逃し

タイガー立石「とらのゆめ」が掲載されているので「こどものとも 年中向き 12月号」を買った。

こどものともを自分で買ったのは初めてだと思う。今回買うまで知らなかったのだが、こどものともは年単位の定期購読を基本としていて、ある号一冊だけを通販することができない。毎号並べている本屋の実店舗ならばあるので一冊で購入できるのだけど、なぜかオンラインで店舗の在庫検索をかけても引っかからない。店にあるかどうかすら足を運ぶか電話して問い合わせるかしなくてはならず、いまだにこんなにアナログな新刊販売の世界もあるのかと新鮮だった。

内容の話をすると、「とらのゆめ」はとらきちという名の緑の虎が見た夢の話で、とらきちは茫漠とした広野が背景の夢の中をひとりで彷徨い、形態を変え、増えたり減ったりし、最後まで眠っている。とらきちの形態変化が意外で楽しい。そしてとらきちは夢ゆえなのか、体のラインが写実からほんのわずかデフォルメに寄っているような線で、そこがチャーミングだ。

タイガー立石の絵本は谷川俊太郎(わたしは谷川俊太郎を思い浮かべているのに打つ文字は谷崎潤一郎になってしまうことが多い)が文を書いている「ままです すきです すてきです」しか新刊では手に入れられず、他は古書値がおそろしく高い。

わたしがいちばん欲しいのは「ぐにゃぐにゃ世界の冒険」で、いまAmazonで検索するともっとも安いもので5,854円、いちばん高いのは898,789円でわけがわからない。語呂合わせか暗号か? ハクハナハク? ハッキューハナハッキュー? ハクバナワクで白馬、縄食う、か? 新刊での元値は1,165円の本である。確かにいい絵だし、トポロジーの絵本なんて珍しいし、全国をまわる展覧会をやっているところだし、高くなるのもわかるけどいいかげんにしてほしい。

「ぐにゃぐにゃ世界の冒険」はこどもの頃に持っており、トポロジー自体はちょっと難しくて、わかるようなわからないようなという気持ちだったけど、見るべきところがたくさんある細かい絵の絵本が好きだったので何度もめくって鑑賞した。タイガー立石の絵画もモチーフが多く、モチーフの組み合わせや変形のさせかたもおもしろいし、観るたびに発見がある。同じモチーフを何度も使う(虎は最頻出だ)ので、見比べるのもいい。今年の初夏、千葉で展覧会をやっており、コロナ禍をぬって観に行ってしまったが、来週からは埼玉で開催するそうなのでまた行きたい。

そういえば最近は全作品ではないにしろ写真撮影可能な展覧会が増えた。わたしはなぜかいちばん気に入ったなぁと思う絵だけいつも撮り逃してしまう。好きだ!と思うと同時にこれは撮ってはいけない、安易に写真に残すな、目に焼き付けろ!みたいな気持ちになってまじまじと眺めたあと、最後まで回り終えて戻ってきてもう一回観て、よしよし覚えたぞこの色合い筆跡モチーフの数、大小、効果、額の細工も!と気負ったのも束の間、会場を抜けたとたん、記憶が曖昧だと気づく。しかもその絵にかぎってポストカードが作られていない。写真フォルダにはまあまあ好き、というくらいの絵だけが数枚残されている。わたしの生き様の縮図だ。と妙に大きいところに統括してオチを作るのやめたいな。