温室・誰もおまえを愛さない

ここ一年で鉢植えの植物がずいぶん増えた。

庭に植えるつもりだったが、庭の日当たりだか土だかがお気にめさず枯れそうになり救出したもの、以前住んでいた場所より寒い地域に越してきてしまったため、外では越冬できなくなったものなど。さらに、植物を好んでいるのは主に夫なのだが、彼は「増やす」ことに楽しみを見出しているらしく、挿木で小さな鉢をいくつも作っていく。

秋を迎え、その秋も短く、朝晩の寒さが冬のようになってきた。鉢植えの植物たちも家の中にとりこまれている。

夫は去年は一台で済んだ簡易温室がもう一台必要だと言って、リビングに二台目の温室を組み立て、その二台を日当たりのよい大きな掃き出し窓の前へ鎮座させた。そのせいでリビングは植物園の作業場のようになってしまい、動線もひどくて窓のブラインドを下ろすのに一苦労である。暖かくしておかなければならないので、温室は動かせないという。

残念ながら、インテリアとかくつろぎとかいう観点からはひどい状態のリビングだ。大きい窓にかかった二枚のブラインドを閉めるために窓の真ん中に空間を作り、両側に温室ツインタワー(高さも違う)となっているし、昼間はレースカーテンもブラインドも温室の前は開けられ、しかし三枚あるレースカーテンの真ん中だけは残されて、窓を中途半端に覆っている。廃墟か。

今年だけだから、来年になったら強くなった株は外に出しておけるから温室は一台だよ、などと夫は言うが、申し訳ないがわたしはほとんど毎日家にいるのだ。家がいい状態かどうかは重要なのだ。半年だって我慢したくない。

今日の夕方ごろ、温室のいちばん上の段に乗っていた小さな鉢がひとつ、棚の後ろ側に落ちてしまった。もともとグラグラするほどの簡易的な軽い温室なので、猫が温室の上に飛び乗るたび、上段の小さい鉢はすこしずつ後ろへ滑っていたらしい。

温室はもういっぱいで重い鉢が下段をしめている。棚の後ろに落ちた鉢と土を片付けるのは大変だ。そこでわたしの我慢が急に限界になり、とうとうソファを動かしだした。部屋の模様替えである。

「我慢が限界」と「ソファを動かす」の間にはもっと段階があるだろうという気がするのだが、もう説明するのも面倒くさい。とにかくわたしはソファーを今ある場所の反対側に動かすと決めた。

ソファを動かし終えてから、テレビなどを乗せていたベンチみたいな台の行き場が失われたことに気づいた。温室ツインタワーを繋ぐように置くしかないのか。しかもツインタワーの間隔はテレビ台の幅よりは狭いから、台は前にはみ出させるしかない。

もうだめ、だめだ。テレビは処分だ。植物は燃やす。猫がキッチンペーパーをビリビリにし出した。だめだ、わたしはいつもそうだ。人生がいつもこう!