楽への道

さあ、PMSを楽にしてもらうぞ!と意気込んで婦人科へ行く。

前日に雪が積もったので、道はところどころが凍り、特に無人、あるいは老人しか住んでいない家の前の道路は雪かきをする人がいないため、てきめんにツルツルである。ペンギンのように足の裏全体を一度に地面につけて歩くと滑らないと聞いたので実践するが、すこし気を抜くとすぐ危ない感じになってしまう。持っている靴の中でいちばん靴底が凸凹しているものを選んだのだが、やはり甘いらしい。

 

初めて行く病院なので緊張する。11月下旬に予約したのに年明けしか空いていなかったので人気の病院なのだろう。それゆえ勝手にきれいなところを想像していたが、着いたのはかなり古い雑居ビルであった。エレベーターも古く、軋む音が大きい。病院内は古さを消そうと化粧パネルで床、壁、天井を覆っているのがわかる。パネルが安すぎるせいか、足音が妙にひびく。

医者はわたしが書いた受診理由を一瞥し、漢方か低容量ピルか月経前だけうつに使う薬を摂取するかの選択肢があるという。PMSにうつの薬ははじめて聞いたが、アメリカではよく処方されているらしい。しかしピル出してくれるんだろうなという心算で来たので、まあとりあえずピルで…ということにした。

子宮や卵巣もエコーで診ておきます、とのことであの独特な検査台に座らせられることになった。下半身はぜんぶ脱がざるをえない。タオルを膝にかけて待つが、医者が次の診察が長引いていてすぐ来ないのでお待ちくださいとアナウンスされる。まじか、こっちはすでに上はフル装備なのに下はなにも着ていないっていうサイテーな格好なんだぞ。検査台は腰かけておくには座面の奥行きが狭すぎて落ち着かないし。今までいったことのある婦人科ではこの検査のとき、検査室のカーテン(あるいは扉)のすぐそばで医者はスタンバイしており、患者が検査台に座るや否や躍り出て、なるべく手短に済まそうという意志が感じられたものである。これは看護師と医者の連携プレイなのであろう。もうちょっとタイミングを揃えられるよう、練習してほしい。

患者のわたしはなにもできず、しょうがないので下半身をスースーさせながら手近にあるエコーの機械を観察した。あまりまじまじとは見たことのないものである。エコーの押し当てる部分は細長く、体の内側から子宮などを映せるようになっているが、それに薄いゴム手袋の指一本だけがかぶせてあり、既にジェルが塗られている。なるほど、直接内臓にエコーの先端を触れさせないようにするためであろうが、専用のゴムサックみたいなものはないのだろうか。これがスタンダードで、どこの病院でもこういうふうにしているのであろうか。

面食らっているうちに医者がやってきて、検査はあっけなく終わった。それにしてもあの検査台は何度乗ってもすっとこどっこいな気がして、病院で検査しているという真面目な状況とのギャップに戸惑う。

婦人科の検査機械はどうも患者への尊厳が足りないように思われる。マンモグラフィだって、あれはなんと乳房を押し潰して撮るのである。わたしは乳が小さいせいか、とんでもなく痛い。麻酔をしないのが不思議なくらいだ。検査中は最大限に眉根が寄って、検査技師にはごめんね、頑張って!と応援されてしまう。ふたつも乳があることを恨んだのはあのときが初めてであり、三つ以上乳のある体でなくてよかったと思ったのも初めてであった。中世の人が見たら拷問されているようにしか思えないであろう。そうしないと患部が映らないんだからしょうがないでしょうといわれそうな気がするが、あれは男性(か乳が大きくてまったく痛くない人)が、やったーこれで見える! えっ、痛い? 見えるんだからちょっとぐらいの苦痛は知らん!と作ったに違いないと踏んでいる。

ともあれ、検査に異常はなく、低容量ピルはぶじ処方された。

最大の誤算は、ピルは月経が始まり三、四日目で飲み始めるものであるため、効果が出るのは来月から、今月もPMSとよろしくやらなくてはならないことである。