膨れる不安

冬の始まりの強風がふく、いい天気の日だった。外気のにおいが違う。庭の落葉樹が、一気に葉を落としていく。南側の庭だが家に囲まれているのであまり日が当たらず、本来なら紅葉が綺麗なはずの落葉樹であっても、枯れたような色でただ呆気なく散ってしまう。

昨日の夜、洗面室の、裏が棚になっている開閉式の鏡を開けっぱなしにしていて、しゃがんだ状態から勢いよく立ち上がり、鏡の角に後頭部を強打してしまった。痛い、すごく。頭がへこんだかと思った。

昨日は自分の失敗に半笑い気味程度だったが、寝て起きてもいつまでも痛い気がして、急に不安になり、頭を強打したときの危険な状態なんかを小一時間調べまくった。ひととおりネットの記事を見て、夫に「もしわたしが吐いたりぼんやりしたりし出したら、病院へ連れて行ってくれ」と真剣に頼んだ。そして出かけたかったけど、大事をとって家でおとなしくしていることにした。

そのときわたしの頭に浮かんでいたのは、数年前、大理石のテーブルの下に潜って床を掃除していたある漫画家が、不注意で後頭部を天板の裏に打ち付けてしまい亡くなった、という事故のことだった。

なにか小さな失敗や不安が、冷静になってこう書いていると異常に思えるくらい大きく育ってしまうことがある。おおきな化け物になった不安は、わたしを「こだわり」に駆り立て、容易に離さない。もしかしたら幻聴が聞こえだす一歩手前なのではないかと、新しい不安が芽吹く。

一方で、鏡の角に頭をぶつけて享年39歳かあ、パッとしないなあと呑気に考えながら、なんとスマホでゲームをしている。あと数時間で死ぬかもしれないと思って、そんな行動が取れるか? 真剣度合いが甘いんじゃないか、と頓珍漢なつっこみを自分で自分に入れながらも、危機的状況に際しては人はなるべく平常を保とうとしてそういうちぐはぐな行動をするのではないかとも思う。

いや、ただのPMSである可能性のほうが高い。この時期のへんなことはぜんぶPMSのせいと思っている節があるな、わたし。身体のサイズ感が狂ってあちこちにぶつけたり、動作が雑になって物を落としまくったりするのは確実にPMSである。制作日記が滞っているのも、作るときにカッターを使うのが危なすぎるからである。

夜になってもう痛くはないが、ほんのりと違和感はあり、明日はこの機会に遺書でも書くか、と思いながら眠る。